和と洋の独特な世界を描く、七海カウドロイさん

日本のオブジェを題材に、モノクロームの世界を描くアーティスト、七海カウドロイさん。彼女の独特な世界観は、日本人の母とオーストラリア人の父の元に生まれた七海さんのマルチカルチャルなルーツにあるようです。

Nanami Cowdroy Japanese/European Artist

Nanami Cowdroy's unique style of art work has its roots in her multicultural heritage. Source: Nanami Cowdroy

折り鶴や金魚、鬼など、日本のオブジェを題材に、モノクロームの世界を描くアーティスト、七海カウドロイさん。

彼女の独特な世界観は、日本人の母とオーストラリア人の父の元に生まれた七海さんのマルチカルチャルなルーツにあります。


ハイライト

  • 七海さんの作品の多くは、幼い頃経験したアイデンティティの葛藤を表現
  • 繊細なオブジェを太い黒の筆で描くことに喜びを感じるそうです
  • 七海さんは、オーストラリア国立大学で開催されている展示会「Here I Am: Art By Great Women」のフィーチャーアーティストのひとりです

 

古き良き時代の日本人女性であるという七海さんの母親は、「女性のあるべき姿」を求めていたそうで、オーストラリアで生まれ育った七海さんは、よく対立し、喧嘩をしていたといいます。

「七海うるさくしないで、控えめに、優しくねなどと言われてきましたが、私はオージーですから」と笑いながら振り返る七海さん。しかし今となっては、日本のカルチャーをしっかりと伝えてくれた母親に感謝し、「オーストラリアのような自由な国で生まれ育ったことを幸運に思う」と語ります。

そんな彼女の幼き頃の葛藤を描いたのが、現在、キャンベラのオーストラリア国立大学で開催されているエキジビション「Here I Am: Art By Great Women 」で展示されている「Onna Bugeisha(女武芸者)」です。
Nanami Cowdroy Japanese/European Artist
”Onna Bugeisha”, currently featured in the exhibition, "Here I Am: Art By Great Women" at the Australian National University Source: Here I Am: Art By Great Women
「伝統的な浮世絵のイメージと現代的な要素やスタイル、オブジェをミックスしたアイデアで遊びたいと思い、描きました。女性であることがどのようなことか、『昔のやり方 対 女性のエンパワーメント』のような遊び心のある作品です」

今回女性アーティストを促進する展覧会に参加できることについて「とても誇りに思っていると」話す七海さん。

「アンブッシュ・ギャラリーとはこれまでも多くのプロジェクトをともにしてきましたが、いつもクリエイティブな女性に発信の場を提供してくれています。今回の展覧会では、先住民の作品も展示されているので、オーストラリアを感じさせる美しい異文化の雰囲気もあります」

クリエイティブな家系出身の七海さん。前述の通り、母親は生花の講師で、亡き父は帽子職人。親戚に目を向ければ、政治漫画家、写真家、ジャーナリスト、作家、ドキュメンタリー映画作家、着物の着付け師など、数え上げればきりがないアーティストファミリーです。
Nanami Cowdroy Childhood
Nanami's mother was a ikebana artist, while her late father was a milliner. Source: Nanami Cowdroy
しかし、アーティストとして生計を立てることの難しさを身をもって実感していたという七海さんは、クリエイティブな部分に触れながらも収入を得るために、インダストリアル・デザインとビジュアル・コミュニケーションを学び、広告会社に9年以上勤務しました。

そんな中、仲の良かった父親が病気になったてしまったことがきっかけで、彼女の人生に転機が訪れます。

父親の最期の言葉『七海、情熱を追いかけて。芸術を追いかけて』がずっと心の中にあったという七海さんは、気づいた頃にはペンを握り、作品を描いていたそうです。

「お父さんを亡くした悲しみと向き合う方法でした」

七海さんが描く作品を一度見れば、すぐに一貫したテーマがあることに気がつきます。洗練されたモノクロームのパレットを使った、彼女の特徴的な細やかな作風。流れるようなラインワークと水のような生き物は、彼女の作品の特徴です。
Nanami Cowdroy Artwork
"Blow Fish" by Nanami Source: Nanami Cowdroy
「壊れそうな繊細なオブジェを太い黒の筆で描くのが好きなんです。まるでそれらに力を与えることができるような気がするんです」。

彼女の作品に登場する折り鶴は、亡き父と祖母に思いを寄せたものだといいます。

「折り鶴は祖母に教わりました。父が亡くなったさいには、みんなで作った折り鶴をそれぞれ棺に入れて、彼を見送りました」

「折り鶴を描くと、父がそばにいるように感じるんです」
Nanami Cowdroy Artwork
"Cable Cranes" by Nanami Cowdroy Source: Nanami Cowdroy
和と洋、そしてトラディショナルとコンテンポラリーを混ぜ合わせた七海さんの独特な世界観は、ソニー、マイクロ・ソフトXボックス、ウェストフィールド、MTV、ハーレーダビッドソン、日産、ミニクーパーなど、国内外の企業の目に止まり、多岐にわたるコラボレーションワークが発表されています。

そしてSBSの独占取材として、今回初めて明らかになりましたが、七海さんがフィーチャーアーティストとして参加したUNODC(国連薬物犯罪事務所)のキャンペーン作品が近日公開されます。このキャンペーンでは七海さんの作品が初めてアニメーションとして息を吹き込まれるようです。



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Published 15 December 2020 9:34pm
Updated 15 December 2020 9:40pm
By Yumi Oba


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